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平田クリニック かわら版 No.23 (2010年4月)

第23回 新しいワクチン「子宮頸がんワクチン」と「小児への肺炎球菌ワクチン」

1.子宮頸がんワクチン
【1】子宮頸がんについて
子宮頸がんは子宮頸部(子宮の入り口)にできるがんで、若い世代に多い病気です。20から30歳代で急増します。
日本では年間約15000人が発症していると報告されています(国立がんセンター)。
子宮頸がんの原因はヒトパピローマウイルス(以下、HPV)が原因で、このウイルスは性交渉により感染します。HPVは、現在100種類以上の型が確認されていますが、型により発がんリスクが異なり、高リスク型HPVは16、18、31、33、35,39,45,51、52,56、58,59,66の13種類が特に重要です。これらの型は、他の性器肛門がんや頭頚部がんの発生にも関与しています(女性のみならず男性も)。HPVは、1回罹患すると生涯罹患しない麻疹ウイルスなどと異なり、感染の機会があれば、繰り返し何度でも感染してしまうウイルスです。


【2】感染による発がん過程
HPVはありふれたウイルスで、一般女性の80%以上が一生に一度は感染するという報告があります。しかも、HPV感染は通常一過性のもので、約90%は2年以内に自然消失します。ところが、高リスク型のHPVが持続感染を来たすと、5年から10年以上経ってから10〜15%の患者さんに子宮頸がんが発症すると報告されています(Katase K, et al, Intervirology 38(3-4) :192, 1995)。
高リスク型HPVの中でも特に16,18型が日本人子宮頸がんの約60%を占めます。このたび発売された子宮頸がんワクチン(サーバリックス)は、このHPV16,18型の感染を防ぐワクチンです。


【3】子宮頸がんワクチン(サーバリックス)について
接種対象は、10歳以上の女性です。米国がん協会(ACS)のHPVワクチンガイドラインでは、有効性のデータが不十分なため、26歳以上及び、男性へは、接種を推奨していません(2007年)。
サーバリックスは、ウイルス遺伝子を含まない蛋白質ワクチンで、免疫原性を高めるためにアジュバントが入っています。このワクチンは3回接種することにより、HPV16,18型の感染をほぼ100%防ぐことができ、この2種類のHPVによる子宮頸がんをほぼ100%予防できます(2価ワクチン)。わが国の子宮頸がんを、全体で、およそ半減させる可能性があります(神田ら、臨床とウイルス 37(3) 145, 2009)。しかし、もし2回以下の接種で中断すると、十分な予防効果が得られないため、3回の接種が必要です。 ワクチンの3回接種により、少なくとも6年にわたり感染に有効な抗体価を維持することが判っています。また、海外データに基づいたシュミレーションでは、ワクチン3回接種により、十分な抗体価が少なくとも20年間維持されることが推計されました(グラクソ・スミスクライン社の資料より)。
一方、このワクチンは、HPV16,18型以外のウイルス感染を予防する効果は十分でないため、このワクチンで全ての子宮頸がんを予防できるわけでないことに注意が必要です。また、既にHPVに感染している場合は、そのウイルスを排除することはできません。 したがって、このワクチンを接種した後も、定期的な子宮頸がん検診を受けることが必要です。
現在、世界規模で第二世代の子宮頸がんワクチンの開発が進んでおり、そのワクチンは、現在のHPV16,18(2価ワクチン)のみならず、約10種類のHPVの感染を予防する10価程度のワクチンです。このワクチンでは高リスクHPVの約90%程度を予防できると予想されています。



2.小児の肺炎球菌ワクチン
【1】肺炎球菌とは

肺炎球菌は、小児、成人ともに呼吸器感染症の起因菌として最も多い細菌です。 更に、近年、抗生物質の効果が悪い肺炎球菌が増加していることも問題となっています。
肺炎球菌は病原性が強く、全身感染症(いわゆる侵襲性肺炎球菌性疾患=以下、IPD)の場合には症状の進行が早く、重症度も高いことから、重要視されている細菌です。IPDは血液や脳脊髄液に肺炎球菌が侵入した状態のことで、その中で菌血症を伴う肺炎や敗血症、髄膜炎は代表的な病気です。全世界で4歳以下の乳幼児における肺炎球菌による死亡は、毎年100万人に上るとされています(Wkly. Epidemiol. Rec., 14: 110 (2003))。下の図に示されているように、小児での発症例は大半が4歳以下に集中しています。

上の図は、年齢ごとの侵襲性肺炎球菌性疾患(IPD)の症例数を表しています。
小児では9歳以下がほとんどで、大半が4歳以下に集中していることがわかります。


【2】小児用の肺炎球菌ワクチン(プレベナー)
現行の成人用の肺炎球菌ワクチンは、免疫系の未熟な小児では効果が得られないため、この度日本でも小児用の肺炎球菌ワクチン(商品名:プレベナー)が認可されました。
このワクチンは、約90種類ある肺炎球菌のうち、乳幼児に重篤な感染症を引き起こす主な7種類の肺炎球菌(血清型 4、6B、9V、14、18C、19F、23F)の菌体成分をキャリア蛋白に結合させたものです。国内におけるIPDの約80%は、このワクチンに含まれる7種類の菌に起因しています。
このワクチンは、下の図のように初回免疫3回と、追加免疫1回の合計4回を実施することにより強力な免疫が得られ、各血清型について、98%から100%の肺炎球菌に対するIgG抗体の産生が得られます。
(ワイス社の社内資料 国内臨床試験のまとめ)。
接種のスケジュールは、6ヶ月以下で接種を開始する場合は上の図のように合計4回接種です。
これはアクトヒブ(インフルエンザ菌ワクチン)や3種混合ワクチン(ジフテリア・破傷風・百日咳)とほぼ同じスケジュールのため、同時に接種することも可能です。

●接種開始が7ヶ月齢以上となった場合
初回免疫は2回行い60日以上後に更に1回、追加免疫を実施します。(合計3回接種)

●接種開始が1歳以上2歳未満の場合
60日以上の間隔で合計2回接種します。

●接種開始が2歳以上9歳以下の場合
1回のみの接種です。


【3】プレベナーの効果

下の図は、プレベナーを接種した場合と、接種していない場合(MnCC群)で、ワクチン血清型に起因するIPDの発症を比べた結果です(Black S, et al. Pediatr Infect Dis J, 19:187(2000) )。プレベナー接種群では、髄膜炎と菌血症が97.4%減少しました。(接種群10940名からは1名の発症、非接種群10995名からは39名の発症)
小児の細菌性髄膜炎は死亡や後遺症が残ることがある重篤な疾患ですが、先に実施されているアクトヒブとプレベナーの両方を接種することにより、多くの細菌性髄膜炎を予防できることとなり、画期的なことです。


【4】プレベナーの安全性

他のワクチンと比較して特異的な副反応はありませんが、他のワクチン同様、稀にアレルギー反応(ショック症状を含む)、痙攣などがみられることがあり、接種後は、他のワクチン同様、医院で少しの時間、様子を見てから帰宅してください。



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